主な病原微生物性食中毒の症状と鑑別 2

低温で増殖するリステリア属、エルシニア属と並んで、真空パック内で増殖可能なので食品衛生の観点から重要な微生物です。

主な病原微生物性食中毒の症状と鑑別 2

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・麻痺(摂食から18〜36時間)
ボツリヌス菌
 低温で増殖するリステリア属、エルシニア属と並んで、真空パック内で増殖可能なので食品衛生の観点から重要な微生物です。左右非対称性の脳神経麻痺で始まり、対称性の弛緩性麻痺がおこり、呼吸筋麻痺を合併します。症状としては、吐き気50%、下痢20%程度です。合併する原因毒素はA・B・E・Fであり、非可逆性にアセチルコリン遊離を神経筋接合部でブロックすることで発症します。これらの部位の再生には数週間〜数ヶ月かかるため、重症の場合は長期の人工呼吸管理が必要となります。腸内細菌叢が完成していない新生児がはちみつを食べるのがリスクとされるのは、少量の芽胞が含まれている可能性があるためです。汚染された真空パック食材や缶詰、自家製発酵食品などもリスクとなります。


・長続きする下痢(1〜3週間)
長続きする下痢症の鑑別では感染症以外にも炎症性腸疾患の初期、腫瘍による下痢(一部の膵臓癌など)、内分泌系の異常(甲状腺機能亢進症など)薬剤性(クロストリジウム・ディフィシル腸炎や様々な薬剤による膠原繊維性大腸炎)なども考慮します。感染症であれば原虫性の下痢を疑います。
1)ジアルジア症
 よく処理をされていない動物の有機農法の肥料で作られた生野菜や生水の飲用がカギとなります。海外渡航歴も考慮します。
2)赤痢アメーバ
 原虫性の下痢症ですが、大腸粘膜に炎症を起こすことも多くあります。血便交じりの下痢が続いて炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎と誤診されてしまうこともあります。また腸管以外の病変として肝膿瘍をきたすこと特徴です。
3)Cyclospora cayetanensis
 主にネパールや南米などでの汚染された食材の摂取で起こります。慢性の下痢、吐き気などが特徴ですが、免疫正常者では多くは軽快します。
4)Cryptosporidium parvum
 7〜10日の潜伏期があり、無症状のことが多い。細胞性免疫不全患者(同種幹細胞移植患者、HIV感染患者など)で長期の下痢症状をきたす場合に鑑別に加えます。

・全身症状や腸管外症状が主となるその他の食中毒
消化管症状より他の症状が前面にでる食中毒は、病歴がカギとなります。しかし、病歴よりも患者の特性、特に細胞性免疫不全(ステロイドの長期使用、HIV感染者、妊婦など)がカギとなることもあります。
1)リステリア症
 食中毒としては、下痢症よりも菌血症をきたした時が問題となります。発熱のみや無症状のことも多く、病歴の特徴として妊婦やステロイド使用者、高齢者が菌血症のリスクとなります。発熱のみや無症状であることも多いのですが、流産の原因になります。潜伏期は3〜70日程度と幅があります。摂食歴のカギとしては輸入乳製品などの汚染、国内でもさまざまな魚製品(ネギトロ、辛子明太子など)の汚染が知られています。
2)V.vulnificus
肝硬変、特にアルコール性肝硬変患者などが、生の海産物を食べて起こります。敗血症と壊死性軟部組織感染症が特徴的です。
3)Salmonella typyiを含むSalmonella属(腸チフス・パラチフス)
 発熱のみや下痢を伴わない場合もあります。特にS.typhi、S.paratyphiは菌血症のみでの発症が特徴的であり、下痢を伴うことはまれです。摂食歴ははっきりとせず、発展途上国での食事などが原因になりえます。
4)トキソプラズマ症
 ネコから感染することもありますが、生ハムなどからも感染します。免疫グロブリンM(IgM)抗体が数年間陽性になる原虫疾患でもあります。妊婦の初感染で先天性トキソプラズマ症になるリスクがあることが問題となりますが、それ以外では無症状の感染が大半です。進行してCD4が100未満程度まで低下したHIV感染症などで中枢性病変をきたすこともあります。

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低温で増殖するリステリア属、エルシニア属と並んで、真空パック内で増殖可能なので食品衛生の観点から重要な微生物です。
主な病原微生物性食中毒の症状と鑑別 1
食中毒の症状から原因食材や病原微生物を特定できる可能性があります。
食中毒の主な症状とよくある誤解
病原性微生物による食中毒の主な症状には以下のものがあります。
下痢とギランバレー症候群の関連
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