主な病原微生物性食中毒の症状と鑑別 1

食中毒の症状から原因食材や病原微生物を特定できる可能性があります。

主な病原微生物性食中毒の症状と鑑別 1

食中毒の症状から原因食材や病原微生物を特定できる可能性があります。
・嘔吐と吐き気(摂食から1〜8時間)
1)黄色ブドウ球菌の毒素性食中毒
 原因食材として、素手で握ったおにぎりがあります
2)Bacllus cereus(セレウス菌)の毒素
 嘔吐毒素型タイプの潜伏期は0.5〜6時間程度とされます。下痢毒素型と同様に、国内外ともチャーハンが有名です。わが国では野外の餅つきなどの集団発生例もあります。食材が汚染され、セレウス菌が発芽・増殖する常温での保存が原因となります。

・腹痛と下痢(8〜16時間)
1)ウェルシュ菌
 主症状は水様性の下痢症と腹痛です。加熱食材で増殖したあとにゆっくり冷やす段階で偏性嫌気性菌であるウェルシュ菌が増殖し、これを摂取すると腸管内でエンテロトキシンを産生して発症します。作り置きのシチューやカレーの常温保存などが原因となります。
2)Bacllus cereus(セレウス菌)の下痢毒素型
 摂取歴は嘔吐毒素型と同様で下痢症状がメインとなります。症状は毒素型でもあり、発熱を伴わない水様性下痢症が特徴です。

・発熱と腹痛と下痢(6〜48時間)
1)腸炎ビブリオ
 潜伏期は4時間〜4日(平均は15時間程度)。保存の悪い海産魚介類が原因食材となります。ビブリオ属は海水中に存在している菌種です。アルコール性肝硬変患者などに激烈な壊死性軟部組織感染症をきたすVibrio vulnificusと同様に、Vibrio parahaemolyticusも海産物の調理の際に軟部組織感染症をきたしうるので注意が必要です。
2)non typhi Salmonella
 潜伏期は6時間〜2日です。一般に加熱の不十分な牛肉、鶏肉やそれらによる他食材の汚染が代表的であり、わが国でも発症が多い。爬虫類や両生類が保菌していることも多いので、生のカメの血液(すっぽんの生き血)を飲んで発症した例もあります。
3)Campylobacter jejuni
 潜伏期は3〜4日程度です。生の鶏肉、牛肉、これらに汚染されたまな板での調理などで起こります。症状には幅がありますが、摂取した菌量が多い場合は菌血症をきたすこともあります。発熱の前に悪寒戦慄をきたすことも多く、その後に発熱、さらに数時間後に下痢という経過が典型的です。

・腹痛と水様性下痢(16〜72時間)
1)毒素原性大腸菌(ETEC)
 潜伏期は4時間〜4日(平均は15時間程度)が一般的です。ノロウイルスと並んで旅行者下痢症の最大の原因です。一般的に下痢が6日続きます。その名の通り毒素による為、通常は発熱することはまれです。
2)腸炎ビブリオ
 職歴がカギとなります。集団発生、渡航歴などがあればVibrio choleraeも考慮します。便培養での確認が必須となります。

・嘔吐と下痢(10〜51時間)
ノロウイルス
 潜伏期は平均33時間程度です。環境中からも感染しうるため、施設などでのアウトブレイクがしばしば問題となります。症状は通常24時間で収まりますが、時に2〜3日続くこともあります。慢性リンパ性白血病(CLL)患者などでは慢性ノロウイルス感染症も報告されていますが、通常は一過性の疾患です。吐き気から嘔吐の症状は胃の動きが止まることでおこり、数時間前に摂食したものが嘔吐されてきます。
・発熱と腹痛または発熱のみ、その後に続く発疹、関節痛や咽頭炎(1〜10日)
エルシニア感染症
 リステリア属と同様に、冷蔵庫内の温度でも増殖可能なことが特徴です。汚染された豚肉からの食中毒が報告されています。回盲部の炎症が強く起こって疼痛が出現するため、虫垂炎と間違えられて手術された例が米国で報告されています。感染後に関節痛、皮疹、咽頭痛をきたすことが知られており、自己免疫機序によるものと考えられています。

・血便と微熱(3〜8日)
腸管出血性大腸炎(EHEC)
 初期の症状は水様性下痢ですが、鮮血の血便を認めることが特徴です。消化管出血と思われるほどの血便が典型的です。6%程度の患者が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症します。これは溶血性貧血、血小板減少症と急性腎不全を伴う症候群です。HUSにおける致死率は3%程度とされています。血清型としてはO-157が有名ですが、これ以外の血清型でもベロ毒素を有するもので起こることもあります。摂食歴は、典型的なものにレアのハンバーグ、牛レバ刺しがあります。一方、ごく少量の菌量でも発症可能な疾患なので、他の食材でも調理時の調理者(汚染された手)や食材からの混入でも起こりえます。

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主な病原微生物性食中毒の症状と鑑別 2
低温で増殖するリステリア属、エルシニア属と並んで、真空パック内で増殖可能なので食品衛生の観点から重要な微生物です。
主な病原微生物性食中毒の症状と鑑別 1
食中毒の症状から原因食材や病原微生物を特定できる可能性があります。
食中毒の主な症状とよくある誤解
病原性微生物による食中毒の主な症状には以下のものがあります。
下痢とギランバレー症候群の関連
ウイルス感染や細菌感染などがきっかけとなって、本来は外敵から自分を守るためにある免疫のシステムが異常になり、自己の末梢神経を障害してしまう自己免疫であると考えられています
糞便移植療法 FMT
糞便移植療法(fecal microbiota transplantation:FMT)は、健常者の便を患者の腸内に投与することで患者の腸内フローラを正常化させることを目的とした治療法です。
感染症に対するプロバイオティクスの効果
プロバイオティクス(probiotics)は「十分な量が投与された場合、宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義されます。
大腸癌検診で癌が見つかり・・検査結果
便秘や痔、生理でなく2日とも便潜血が陽性だったら、早めに大腸内視鏡検査を受けるべきです。早期に見つかれば内視鏡的切除術で処置することができます。
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検査着に着かえます。お尻の部分に穴の開いた紙パンツとガウンのような検査着です。検査台の上に横向きに膝を抱えるような姿勢になります。
大腸癌検診で癌が見つかり・・
職場の健康診断で大腸癌検診(免疫学的便潜血2日法)で2日とも便潜血が陽性となりました。
プロバイオティクスの健康予防効果とは
プロバイオティクスは、「ヒトに健康効果をもたらす生きた微生物」と定義されます。ヒトの正常な腸内常在菌の維持と調節に重要な機能をもっており、さまざまな機能研究がなされています。

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